長寿と健康寿命と歯の話③~何歳から歯の治療を始めますか?高齢者の歯科治療は想像しているよりもはるかに難しいのです~
「カウントダウンアプリ」というのをご存じですか?
記念日・試験・結婚式など、大切な日までの日数や時間を確認できるスマホのアプリです。
カウントダウンアプリには人生の残り時間をカウントダウンしてくれる「寿命時計」や「余命タイマー」と呼ばれるものもあります。
先日、「目標寿命」を入力して人生時計を設定してみました。
私は現在54歳ですが、この原稿を書いている日から74歳まであと20年間生きるとすれば残された日は7193日。84歳まであと30年間生きるとすれば残された日は10846日となります。ここから先の計算は果たして必要なのかどうか疑問ですが、人生100年時代と言われているので試しに100歳までの46年間をカウントダウンすれば残りの日数は16690日となります。
「人生100年時代」という言葉が普通に使われるようになりましたが実際の寿命はもっと短く、介護や支援が必要になってから亡くなるまでの期間は男性で9年間、女性で12年間と言われています。介護や支援を必要とせず、自分の口から食事ができる「健康」な時間は案外短いものです。
最近、大澤歯科医院にはご家族やヘルパーさんに付き添われて来院する70代、80代の患者さんが増えています。歩行が困難なので車いすや歩行器あるいは誰かに支えてもらってどうにか通院している。認知症のため一人での外出が危険であるなどといった状態の方がほとんどです。
このような患者さんはヘルパーさんや介護タクシーの手配、付き添いの家族の予定を確認したりと、治療に来るまでにやらなければならないことが山積みであり、歯科治療を始めるためのハードルが非常に高くなっています。したがっていざ治療を始めたものの、歯科治療開始のハードルが高いため途中で治療を挫折したり、時には体調が急変してお亡くなりになっていたということもあります。
急な病気や事故の場合を除き、いきなり歩けなくなったり寝たきりになるという可能性は低いでしょう。この患者さんたちも自分の意思で通院できた時期はあったはずです。
自分一人では通院が出来ない患者さんが歯科治療を始める理由は「我慢の限界を超えてどうしようもなくなった」からです。
以前からむし歯で痛みがあったけれども我慢してきたが化膿して顔が腫れて痛みが止まらない。歯周病で動いていていた歯が咬むと痛みが出るようになりついに食事ができなくなった。部分的に壊れていた入れ歯が使えなくなったなど理由はさまざまです。
「なぜこんなになるまで放っておいたのだろう」と心の中でつぶやいてしまう時もあります。そしてどのような治療計画を立てたらいいか頭を抱えることもしばしばあります。
また、高齢者の場合、程度の差はあれ内科的疾患があります。特に「血液をサラサラにする」抗凝固剤を内服している場合は「抜歯の前に歯を抜いてもいいか?」ということを内科主治医に確認する必要があります。患者さん自身は「歯を抜いても大丈夫、大丈夫」と言いますが内科主治医からの返事は患者さんが想像しているより全身状態がかなり悪く、抜歯が出来ないというケースにも遭遇します。
首や肩、腰にトラブルを抱え、ユニット(歯科治療の椅子)に長時間座っていられないという高齢者も珍しくありません。
歯科医院へ来るまでのハードル、内科的疾患、整形外科的疾患のために治療を開始するまでのハードルなど、高齢者の歯科治療は想像しているよりはるかに複雑なのです。
口の中にトラブルを抱えていれば「食べる事」に支障が出ます。「食べる事」は全身の健康状態に直結します。
「寿命」という砂時計は止まることなく落ち続けます。自分の意思で、自分の足で歯科医院に通院できるうちに治療をして、口腔内のトラブルを解決しておくことこそが「健康寿命」を伸ばすことに繋がるのです。
コラムニスト:大澤優子
株式会社ケロル 代表取締役
歯科医師
八戸市出身。岩手医科大学歯学部卒業後10年の勤務医生活を経験し、その後大澤歯科医院副院長となり現在に至る。
医院とスタッフのマネジメント、子育てで悩んでいた40代で個性心理學と出会い、個性心理學認定講師として一部上場企業、歯科デーラー、小児科医院などでの講演を多数行っている。
青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログで女性歯科医師としての目線で、日々の診療、働く女性として、子育てのことなどを発信中。
●青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログ
https://ameblo.jp/dr-yuko0610/