「透析技術認定士による透析の基礎の基礎」 (7)「腎移植について」

最終更新日:2021年2月18日

新年明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い申し上げます。

 

さて、今年初めての透析技術認定士による透析の基礎の基礎をお送りします。今回は「腎移植について」学んでいきましょう。

腎移植とは?

腎移植は末期腎不全患者に対する腎臓の移植のこと 腎臓移植とも言われ、末期腎不全患者における血液透析、腹膜透析に替わる治療法の一つです Q1 どういう人が移植を受けれるのでしょうか?

 

腎臓の機能が下がり、透析をしないと、あるいは1年以内に透析に導入しないと、尿毒症になって命の危険性が大きくなるような人が腎移植を受けられます。

 

ただし、腎移植の手術を受けられないほどに心肺機能が落ちている人、活動性の感染症がある人、悪性腫瘍が治っていない人は、腎移植手術そのものと免疫抑制療法の危険性が高く、これらが治ったことを確認してから腎移植を受けることになります。

 

年齢は心肺機能に問題がなければ特に制限はありませんが、あまりご高齢な方は手術そのものが危険になるので、移植医に相談してください。

 

なぜ移植が必要なのでしょうか?

腎移植の代わりに透析(血液透析、腹膜透析)がありますが、透析による合併症(心臓血管系、骨、感染症など)により、生き残る確率(生存率)が悪くなります。

 

透析療法では、正常な腎機能の代わりがそれほどできないためにこのようなことが起きます。腎代替機能を上げようとすると、長い時間、あるいは頻回に透析をする必要ありますので、社会生活に支障をきたし、いわゆる生活の質が下がってしまいます。

 

移植を受けるとどのくらい長生きできるのでしょうか?

近年の腎移植の生存率(生き延びる確率)は、生体腎移植では3年で97.6%、5年で96.7%、10年で92%、献腎移植ではそれぞれ94.1%、89.3%、82.5%と、昔に比べて格段に良くなっています。

 

移植された臓器はどのくらいもつのでしょうか?

腎移植の生着率(移植した腎臓が機能している確率)は生体腎移植では3年で95.2%、5年で91%、10年で74.6%、献腎移植ではそれぞれ86.6%、79.1%、59.3%で、昔に比べて格段に良くなっています。

 

これらは近年さらに改善しています。

 

血液型が違っても腎移植はできるのでしょうか?

血液型が違っても臓器移植は可能です。2013年までで、腎移植では2,500例以上の血液型不適合移植がおこなわれており、移植の成績も血液型が一致している組み合わせと比較しても同等の成績です。

 

血液型不一致移植は、血液型が一致した移植と移植の方法はほとんどかわりません。

 

血液型不適合移植では移植前の免疫抑制剤の服用方法、免疫抑制剤の種類などが変わってきます。移植前に血漿交換などの特殊な治療をすることにより、血液型が不適合でも腎移植が可能となり成績も良くなってきています。

 

最近は、血液型不適合の夫婦間腎移植も盛んに行われるようになってきています。

 

腎臓が悪くなって来た場合、透析をせずに腎移植することはできますか?

可能です。透析をしないで腎移植をすることを「先行的腎移植」といいます。 腎臓が悪くなり末期腎不全になると尿毒症になります。

 

尿毒症がさらに進むと生命を脅かすこととなり、腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)の必要があります。

 

腎移植に関して、これまでは透析をして体調を整えてから腎移植をした方がよいと考えられていました。ところが最近では、透析をすることなく腎移植をする方が、生存率や生着率などの成績がよいという報告が、海外をはじめ多数みられるようになり「先行的腎移植」が盛んに行われるようになってきています。

 

小児における「先行的腎移植」は以前より多数行われていました。小児が腎不全になると、成長障害、精神的発育障害がみられますが、透析療法ではこれらの合併症は解決できません。

 

したがって、小児の腎不全には透析療法を経ない「先行的腎移植」が最善、最良の治療法となります。

 

移植にかかる費用を教えて下さい

透析療法を経てから移植する場合は、患者さんの多くが身体障害者1級を有し、重度心身障害者医療費助成制度が適応となります。これは都道府県や市町村が実施しており、対象となる障害の程度や助成内容も各自治体によって異なります。

 

身体障害者手帳(腎臓機能障害)をお持ちの方に対しては、透析療法および腎移植医療に対して適応となりますので、状況に応じて最適な医療保障制度を利用することが出来ます。

 

手術料(移植手術、臓器採取手術)、移植後の治療費(入院・外来の検査費、薬剤費など)などは健康保険で支払われます。 献腎移植の場合、腎臓を採取するために採取チームを派遣する交通費、臓器搬送費などは医療保険でカバーされないので一旦支払わなくてはなりません。後で、各人が加入されている医療保険に応じて所定の場所(社会保険であれば管轄の社会保険事務所・組合など、国民保険であれば市町村役場)に申請をすると、7割程度還付されます。

 

各自治体や病院や移植後の入院期間などの相違により負担金も変わってきますので詳しくは担当医、レシピエントコーディネーター、病院のソーシャルワーカーと相談してください。

 

また、その上で自己負担が一定の金額を超えた場合、超えた額が払い戻される「高額療養費制度」などがあります。 まとめ 昔に比べて移植医療の進歩も進みました。

 

世界に比べて日本はまだ移植に対する認識が低いですが、現在、臓器提供の意思表示を運転免許証や健康保険証の裏に記入する欄を設けていますね。

 

生体腎移植が普及すれば血液透析をしなくても大丈夫な時代がくるのではないでしょうか?

 

腎移植をした方々と話をした事がありますが、普通の生活に戻れて嬉しいと生き生きして人生ライフを満喫していました。話を聞いていろいろと考えさせられました。

 

今後の移植に対するより良い展開に期待しながら自分も移植に関して伝えていけたらと思っています。

 

以上

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執筆者
池上文尋

池上文尋

北里大学獣医学部 動物資源科学科卒 
大学時代、現在、人に使われている生殖医療の基本技術を学ぶ。
卒業後、外資系製薬企業に所属し、12年間、製薬企業のマーケティングスタッフとして勤務する。(ノバルティス・メルクセローノ・ファイザー)

特にセローノでは不妊治療に使うホルモン剤を中心に扱っていたので、不妊治療に関わる先生方と深く関わることになった。

2000年7月に株式会社メディエンスを設立、日本全国の産婦人科クリニックや病院の広報やブランディングをサポートする事業を開始。また、製薬企業向けのポータルサイトを制作、製薬企業のスタッフ教育に関わる。

不妊治療に造詣が深く、妊娠力向上委員会、胚培養士ドットコム、日刊妊娠塾という不妊治療関係のネットメディアを運営している。また、不妊治療関係の企業へのコンテンツ提供を行っている。

2002年より、オールアバウトの不妊治療ガイドとして16年間執筆・編集に従事。その他にも不妊に関する多くの著書、映画、調査などのアドバイザーとして関わる。

不妊治療の取材で訪れたクリニックや病院、関係施設は300を超え、日本で最も不妊関係の取材を行っている一人である。現在もその姿勢は変わらない。

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