第6回 「キスは怖い」という話~むし歯は伝染する・キスで伝染する病気たち~

最終更新日:2021年12月5日

世界一清潔好きと言われている日本人ですが、「口のお掃除」や「口腔ケア」に関しては超不潔と言われています。日本に来た外国人が日本人の口の臭さ(口臭)に驚いた、という話も珍しくありません。歯並びでその人が育った家庭の文化的水準や経済状況を判断する指針のひとつにする海外では、「八重歯が可愛い」という日本独自の文化にも違和感を抱くようです。

 

挨拶にキスをする習慣がある西欧では「口腔ケア」が当たり前です。歯ブラシを使ってのブラッシングは日本人も行っていますが、西欧では当たり前の、デンタルフロスを使っての「フロッシング」を習慣にしている日本人はどれくらい存在するでしょうか。そもそも「デンタルフロス」の存在自体を知らない、という人も珍しくありません。

 

1990年、今から30年以上前に公開された「プリティーウーマン」という映画があります。今ではハリウッドを代表する女優であるジュリア・ロバーツの出世作で、この映画でゴールデングローブ賞主演女優賞に輝きました。

 

映画はジュリア・ロバーツ演じる売春婦ビビアン・ワードとリチャード・ギア演じる実業家エドワード・ルイスのシンデレラストーリーそしてラブコメディーです。ホテルにチェックインしたビビアンとエドワード。情事の前にバスルームでビビアンが何かを隠します。ドラッグを隠したと思ったエドワードはビビアンに隠したものを出すように言い、そこでビビアンが出したものは、、、、、。なんと「デンタルフロス」だったのです。歯と歯ぐきに挟まったイチゴの種を取ろうとしてバスルームでデンタルフロスを使っていたのです。歯科医師として、とても記憶に残っている映画のワンシーンです。

 

 

また、この映画には衝撃的なセリフがあります。「何でもするけど(体の関係はOKだが)、唇にキスだけはダメ」というものです。つまり体は許しても唇へのキスは許さない。キスをすると情がうつってしまう、そしてキスをすると病気がうつってしまう、ということです。

 

むし歯菌や歯周病菌は歯や歯ぐきに付着しているのはもちろんですが、唾液(ツバ)の中にも菌は存在しています。唾液を介してもむし歯菌や歯周病菌が伝染するのです。つまりむし歯や歯周病は菌による感染症なのです。

もし、セックスパートナーがいてその相手とキスをする場合。唾液を介して自分のむし歯菌や歯周病菌を相手に移す可能性はもちろんですが、口腔ケアをしていない相手から「病気(むし歯や歯周病)を移される」という可能性もあるのです。

 

子育て中のお母さんならば、自分が使った箸やスプーンで子供に食べさせると母親の口の中にある菌を子供にうつしてしまう(母子感染)、というのはご存知だと思います。親子に限ったことではなく、飲み物の回し飲みやストローを他人と共有することによっても菌を感染させてしまう場合もあります。箸やスプーン、飲み物やストローについた唾液を介して菌をやり取りしているのです。もちろん口腔ケアをしていない、口の中が不潔な人の唾液が自分の口の中に入ったからと言ってすぐに感染するわけではありません。口の中にはたくさんの菌がありますが、全ての菌が悪さをするわけではなく、いろいろな菌のバランスが崩れた時にむし歯や歯周病菌が悪さをし出すのです。

 

唾液を介する可能性がある人同士(親子や夫婦、恋人やセックスパートナー)が、一緒に歯科検診をして、綺麗な口の中を保ち、お互いに口腔内感染症のリスクを減らすことを習慣にしましょう。

 

ビビアンがロデオドライブで買い物をする時に流れるロイ・オービソンの「Oh,Pretty Woman」は明るく、軽快な曲で聞いたことがある人も多いでしょう。当時は結婚式の入場曲にもよく使われました。気分だけはハリウッド女優(笑)! 白い歯を見せてとびっきりの笑顔で笑えるように日ごろからこまめなデンタルケアをお忘れなく。ある日突然、若かりし頃のリチャード・ギアやジョージ・クルーニー(筆者の個人的な趣味です)が目の前に現れるかもしれませんよ。

 

 

コラムニスト:大澤優子

株式会社ケロル 代表取締役
歯科医師

 

八戸市出身。岩手医科大学歯学部卒業後10年の勤務医生活を経験し、その後大澤歯科医院副院長となり現在に至る。

医院とスタッフのマネジメント、子育てで悩んでいた40代で個性心理學と出会い、個性心理學認定講師として一部上場企業、歯科デーラー、小児科医院などでの講演を多数行っている。

青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログで女性歯科医師としての目線で、日々の診療、働く女性として、子育てのことなどを発信中。

 

●青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログ
https://ameblo.jp/dr-yuko0610/

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執筆者
池上文尋

池上文尋

北里大学獣医学部 動物資源科学科卒 
大学時代、現在、人に使われている生殖医療の基本技術を学ぶ。
卒業後、外資系製薬企業に所属し、12年間、製薬企業のマーケティングスタッフとして勤務する。(ノバルティス・メルクセローノ・ファイザー)

特にセローノでは不妊治療に使うホルモン剤を中心に扱っていたので、不妊治療に関わる先生方と深く関わることになった。

2000年7月に株式会社メディエンスを設立、日本全国の産婦人科クリニックや病院の広報やブランディングをサポートする事業を開始。また、製薬企業向けのポータルサイトを制作、製薬企業のスタッフ教育に関わる。

不妊治療に造詣が深く、妊娠力向上委員会、胚培養士ドットコム、日刊妊娠塾という不妊治療関係のネットメディアを運営している。また、不妊治療関係の企業へのコンテンツ提供を行っている。

2002年より、オールアバウトの不妊治療ガイドとして16年間執筆・編集に従事。その他にも不妊に関する多くの著書、映画、調査などのアドバイザーとして関わる。

不妊治療の取材で訪れたクリニックや病院、関係施設は300を超え、日本で最も不妊関係の取材を行っている一人である。現在もその姿勢は変わらない。

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