第3回『ボケなくないと思っているならば』 ボケることなく人生の終末を迎えたいと望んでいる方へ

最終更新日:2021年8月9日

知り合いのドクターから聞いた話ですが、認知症の高齢者が家の中で転倒して骨折、入院して手術が必要になった時に家族から「うちのおばあちゃん(またはおじいちゃん)が家に帰ってこないように、骨折の手術をしないで欲しい」と言われたことがあるそうです。

 

家族なのに酷すぎる、と思うかもしれませんが認知症高齢者を介護するということがどれ程大変なことか、そしてその大変さは実際に認知症高齢者を介護した家族にしか分からないということを物語っている実話です。

 

アルツハイマー型認知症の高齢者と健康な高齢者の口の中の状態を比べると、「残っている歯の本数が全く違う」ということが分かっています。健康な高齢者はアルツハイマー型認知症の高齢者の3倍歯が残っているのです。また、アルツハイマー型認知症の高齢者は歯を失った後に入れ歯などの治療をせずに歯が無いままの状態になっていることが多い、というデータもあります。

 

つまりボケたくなければ①自分の歯を失わないようにする。②もし歯を失った場合は放置せずに入れ歯などを使って咬めるようにする。この二つの事を実行するべきです。

 

では、なぜ歯を失うとボケてしまう確率が高くなるのでしょうか?

 

歯は顎の骨にくっついていると思っている方が多いのですが、歯と顎の骨は直接くっついているわけではありません。「歯根膜(しこんまく)」という組織が歯と顎の骨の間に存在していてクッションのような役目をしています。

 

 

歯根膜は咬むたびに圧迫されて、歯根膜の中にある血管を脳に血液を送り出しているのです。歯の本数が多い人やよく咬んで食べる人はより多くの血液が脳に送り込まれ、脳は常に刺激を受けて活性化しているのです。また歯根膜は咬んだ時の刺激を脳に伝える働きをしています。

 

残念ながら認知症になった方の口の中には自分の歯がない、そして入れ歯を使っていないことがほとんどです。そのため咬むことが出来ず、さらに症状が悪化して寝たきりになり介護なしでは生きていくことが困難となります。歯根膜こそがボケるかボケないかの分かれ道、そして人生の最後をどんな形で迎えるかに関わってきます。

 

人生の質を決めると言っても過言ではない「歯根膜」。歯根膜は歯と不離一体(ふりいったい:一つとなっているために離れることができない)です。つまり歯根膜を失わない=「歯を失わない」ということになるのです。

 

歯を失わないためには歯科の二大疾患であるむし歯と歯周病にならないようにする、あるいはむし歯や歯周病になったら放置せずに治療することが重要です。

 

介護や支援が必要になってから亡くなるまでの期間は男性で約9年間、女性で12年間と言われています。

 

誰もが「ボケたくない」「家族に迷惑をかけたくない」と思っているはずですが、ただ思っているだけでそうならないように自分の健康に責任を持って生活をしている人の割合は一体どれくらいでしょう。

 

団塊の世代(1947年~1949年生まれの人たち)が75歳を迎え、日本がさらなる超高齢化社会に突入する2025年。少子高齢化による労働力不足に端を発し、医療や介護などの社会保障制度が破綻に向かっていく「2025年問題」。元気なうちは「たかが歯1本」と思うでしょう。

 

しかし、「2025年問題」に突入するまであと数年。コロナ禍で今までは常識、当たり前だと思っていたことが簡単に崩壊することを体験している私たち。考えたくないことですが医療や介護を当たり前に受けられない時代がやって来るかもしれません。自分の健康に責任を持ち、人生の最後の時まで幸せに生きられるように今日からは「たかが歯1本」という認識を改めてみませんか。

 

コラムニスト:大澤優子

 

株式会社ケロル 代表取締役
歯科医師

 

八戸市出身。岩手医科大学歯学部卒業後10年の勤務医生活を経験し、その後大澤歯科医院副院長となり現在に至る。

 

医院とスタッフのマネジメント、子育てで悩んでいた40代で個性心理學と出会い、個性心理學認定講師として一部上場企業、歯科デーラー、小児科医院などでの講演を多数行っている。

 

青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログで女性歯科医師としての目線で、日々の診療、働く女性として、子育てのことなどを発信中。

 

●青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログ
https://ameblo.jp/dr-yuko0610/

  • この記事に関するご感想・ご意見・お問い合わせなどがございましたら、ぜひご記入ください。ご記入頂いた皆様の中から毎月10名の方に編集部よりお楽しみプレゼントを送らせて頂きます。
執筆者
池上文尋

池上文尋

北里大学獣医学部 動物資源科学科卒 
大学時代、現在、人に使われている生殖医療の基本技術を学ぶ。
卒業後、外資系製薬企業に所属し、12年間、製薬企業のマーケティングスタッフとして勤務する。(ノバルティス・メルクセローノ・ファイザー)

特にセローノでは不妊治療に使うホルモン剤を中心に扱っていたので、不妊治療に関わる先生方と深く関わることになった。

2000年7月に株式会社メディエンスを設立、日本全国の産婦人科クリニックや病院の広報やブランディングをサポートする事業を開始。また、製薬企業向けのポータルサイトを制作、製薬企業のスタッフ教育に関わる。

不妊治療に造詣が深く、妊娠力向上委員会、胚培養士ドットコム、日刊妊娠塾という不妊治療関係のネットメディアを運営している。また、不妊治療関係の企業へのコンテンツ提供を行っている。

2002年より、オールアバウトの不妊治療ガイドとして16年間執筆・編集に従事。その他にも不妊に関する多くの著書、映画、調査などのアドバイザーとして関わる。

不妊治療の取材で訪れたクリニックや病院、関係施設は300を超え、日本で最も不妊関係の取材を行っている一人である。現在もその姿勢は変わらない。

blank