発達障害のお子さんの歯科治療について~発達障害のお子さんが歯科治療で困らないためにできること~

最終更新日:2023年12月23日

「発達障害」とは、生まれつき脳機能の発達に凸凹(でこぼこ)があるため、人間関係や社会生活に支障をきたす障害のことです。

 

なぜ脳機能の発達に凸凹が生じるのかはっきりわかっていませんが(一部では遺伝的な要素が関係しているとされています)親の育て方が発症に関係するものではありません。本人のわがままや個性ではなく「脳機能の発達が偏っている」ということを理解する必要があります。

 

発達障害は自閉症スペクトラム症(ASD)、注意欠如・他動症(ADHD)、学習障害(LD)という3つのタイプに分けられています。発達障害のお子さんの特性はさまざまであり、3つのタイプの特性が複数重なることもあります。

 

 

今回は発達障害のお子さんの歯科治療について考えてみたいと思います。

 

発達障害のお子さんは音、光、味、におい、人に体を触られることに過敏、あるいは苦手とすることが多いため歯磨きを嫌がる傾向にあります。また「特定の物や行動」に強いこだわりを持つ傾向が強いため、食事やおやつが偏り(偏食)、口腔内の衛生状態が悪くなってしまう場合があります。

 

私自身「仕上げ磨きを全くさせてくれない」「3歳になるまで一度も歯磨きをしたことがない」「ある程度の年齢になっているのに歯科医院に来ると泣き続ける」などというお子さんをお持ちの保護者に相談をされることがあります。もちろん子どもの成長発達の過程で「歯磨きを嫌がる」というのは珍しいことではありません。保護者の仕上げ磨きの方法が間違っていたために子どもが歯磨きを嫌がる、というケースもありました。

 

極端に歯磨きを嫌がり続ける場合は保護者の仕上げ磨きの方法が間違っていないかを歯科医院で確認する、子どもの成長発育を専門家(市町村の子どもの発達相談窓口や発達障害支援センター、小児科)に相談するということを考えてみるのもいいかもしれません。

 

大澤歯科医院の子ども用の問診票には「子どもの成長発育」について記入してもらう欄がありますが、最近はお子さんが「発達障害と診断されている」さらに発達障害のタイプも記入して下さる保護者の方も増えてきました。

 

保育園から専門機関の受診をすすめられた、あるいはお子さんの特性が強く、子育てに苦労しているので自分から専門機関を受診して発達障害と診断された、という経緯をたどることが多いようです。

 

 

 

発達障害のお子さんの特性は個人差があるため歯科治療は非常に難しく、対応できる場合と対応できない場合があります。歯科医院は大人でも行きたくない場所ですが、お子さんに感覚異常がある場合、歯科医院という場所は苦手なことばかりの空間です。

 

①聴覚:歯を削るタービンや唾液や水を吸うバキュームの音が聞こえる

②視覚:口腔内を照らすライトが眩しい

③味覚:歯磨き粉や治療するための材料の味

④臭覚:歯科医院独自の薬品の臭い

⑤触覚:口の中に物を入れる、知らない人に触られる

 

歯科治療は上記の①~⑤をクリアしなければ成り立ちません。

 

そのためには、できるだけ早く(むし歯がなくても)歯科医院を受診して、歯科医院の雰囲気に慣れる、歯磨きや治療の練習をしておくことが(発達障害の有無にかかわらず)将来歯科治療が必要になった場合に親と子の両方がストレスを減らすことにつながります。

 

もし、発達障害と診断されてから歯科治療を始める場合はユニット(治療用の椅子)にひとりで座り、他人(歯科医院のスタッフ)に歯磨きをしてもらう練習から始めます。

 

しかし、お子さんがなかなかひとりでユニットに座れなかったり、歯磨きができずに泣き叫んでしまって全く治療が進まないために、途中から来院しなくなる親子が多いのも事実です。

 

保護者の方はお子さんの「できないこと、できなかったこと」に気をとられてしまいますが、たとえゆっくりでも「できたこと」を増やしながら歯科治療をすすめるように心がけています。

 

株式会社ケロル 代表取締役
歯科医師

八戸市出身。岩手医科大学歯学部卒業後10年の勤務医生活を経験し、その後大澤歯科医院副院長となり現在に至る。

医院とスタッフのマネジメント、子育てで悩んでいた40代で個性心理學と出会い、個性心理學認定講師として一部上場企業、歯科デーラー、小児科医院などでの講演を多数行っている。

青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログで女性歯科医師としての目線で、日々の診療、働く女性として、子育てのことなどを発信中。

●青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログ
https://ameblo.jp/dr-yuko0610/

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執筆者
池上文尋

池上文尋

北里大学獣医学部 動物資源科学科卒 
大学時代、現在、人に使われている生殖医療の基本技術を学ぶ。
卒業後、外資系製薬企業に所属し、12年間、製薬企業のマーケティングスタッフとして勤務する。(ノバルティス・メルクセローノ・ファイザー)

特にセローノでは不妊治療に使うホルモン剤を中心に扱っていたので、不妊治療に関わる先生方と深く関わることになった。

2000年7月に株式会社メディエンスを設立、日本全国の産婦人科クリニックや病院の広報やブランディングをサポートする事業を開始。また、製薬企業向けのポータルサイトを制作、製薬企業のスタッフ教育に関わる。

不妊治療に造詣が深く、妊娠力向上委員会、胚培養士ドットコム、日刊妊娠塾という不妊治療関係のネットメディアを運営している。また、不妊治療関係の企業へのコンテンツ提供を行っている。

2002年より、オールアバウトの不妊治療ガイドとして16年間執筆・編集に従事。その他にも不妊に関する多くの著書、映画、調査などのアドバイザーとして関わる。

不妊治療の取材で訪れたクリニックや病院、関係施設は300を超え、日本で最も不妊関係の取材を行っている一人である。現在もその姿勢は変わらない。

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