「年を取ったら入れ歯になる」のは本当か?~歯で困らないためには「再治療」を避けること~
「年を取ったら入れ歯になる」という話、聞いたことがある人も多いと思います。
実はこの話、都市伝説レベルの話であり、歯科医師ならばNOと答えます。
年をとる=加齢で歯を失うことはありません。もちろん歯も他の体の部位と同じで数十年間も使うとガタがきます。例えば歯がすり減ってきたり、歯の表面の色が黄ばんでくるのは加齢によるものです。
しかし、年をとったからといって自然に歯が抜けることはありません。年をとると歯が抜けるので入れ歯になるというのは誤解であり、間違いでもあります。
では歯が抜ける(=歯を失う)原因は何でしょうか?
日本人の歯科の二大疾患と言われるむし歯と歯周病が原因です。
まずはむし歯ですが、むし歯になったからと言ってすぐに歯を失うことはありません。
次のような順番で歯を失っていきます。
小さいむし歯の治療は少し歯を削って詰め物をする治療で終わりますが、厄介なのは歯の神経(歯髄:しずい)までむし歯が進行している場合です。
歯科医院で「神経をとる」「神経の処置をする」などと言われたことがあるかもしれません。歯の神経をとって、歯の神経が入っていた空洞(歯髄腔:しずいくう)にお薬を詰めるのですが、神経を失った歯の先には病変ができやすくなります。
また神経を失った歯(失活歯:しっかつし)に土台を立てて、被せものをすると被せものと歯の境目がむし歯になりやすくなるために何度も被せものをやり直すことになります。
強い力が加わり、歯の根が割れることもあります。(歯根破折:しこんはせつ)。
歯が折れた場合は抜歯をして、両隣の歯を削ってブリッジにします。
ブリッジの支えになっていた歯がむし歯になり、ついにはブリッジができなくなり部分入れ歯になる、というのがむし歯で歯を失う流れです。
私達歯科医師が治療をした歯は全く治療をしていない歯に比べて寿命が短くなります。
将来歯を失いたくないのであれば「歯科医師にこれ以上治療をさせない」というのが理想的です。
「歯科医師に治療をさせない」と聞くと今現在歯や口の中に病気があるのに放っておいてもいいのか?と勘違いするかもしれませんが、歯と口の中の病気は体の他の部分と同じで早期治療が必要です。治療が必要な悪いところを全て治したら、再治療を繰り返さないようにすることが重要なのです。
日本人のほとんどは歯科治療経験者です。お口の中には詰め物をした歯や銀歯、ブリッジ、インプラント、入れ歯などが入っています。
一度治療したむし歯は進行しないと思っている方が多いのですが、ホームケアとメンテナンスしなければむし歯は進行し再治療が必要になります。
歯科治療経験者こそメンテナンスを続けて再治療の可能性を低くすることが歯を失わないことに繋がるのです。
「年を取ったら入れ歯になる」という都市伝説ではなく「人は年を取っても自分の歯で死ぬまで口から物を食べることが出来る」という認識が浸透するように願っています。
コラムニスト:大澤優子
株式会社ケロル 代表取締役
歯科医師
八戸市出身。岩手医科大学歯学部卒業後10年の勤務医生活を経験し、その後大澤歯科医院副院長となり現在に至る。
医院とスタッフのマネジメント、子育てで悩んでいた40代で個性心理學と出会い、個性心理學認定講師として一部上場企業、歯科デーラー、小児科医院などでの講演を多数行っている。
青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログで女性歯科医師としての目線で、日々の診療、働く女性として、子育てのことなどを発信中。
●青森市大澤歯科医院「ママさん歯科医師Dr. YUKO」のブログ
https://ameblo.jp/dr-yuko0610/