名医とはなんだろう?(1)~情報の非対称性

最終更新日:2020年5月11日

編集長の池上さんから「川越さんからみた名医についての考えを連載してほしい」と依頼されたので、張り切って書かせていただきます。

 

 「なぜ、患者が自ら病院(神の手を持つ医師)を探さなければならないのか?医師が良い病院を紹介してくれれば済むことではないか?」──先日、“死に方”を考えるワークショップに参加した際、ある参加者が講師である医師に、ごもっともな質問をぶつけていました。

 

 情報の非対称性という経済学用語をご存じでしょうか。ウィキペディアによると「市場における各取引主体が保有する情報に差があるときの、その不均等な情報構造である」と説明されています。つまり、売り手と買い手の情報格差のことです。

 

 私は、「金融」「不動産」「医療」の3つを“情報の非対称性3兄弟”と呼んでいます。この3つに関するマッチングサイトをつくれば、多くのアクセスを集められると10年前から予言していました(笑)。この3つは、どんなにサービスの受け手側が情報収集しても、自分に最適なサービスを受けることが難しいと思います。

 

 すでに、金融や不動産については、情報の非対称性を解消するための“プロ”が存在しています。プロにある程度の金額を支払えば、自分にふさわしい金融・保険商品や不動産の情報を得ることが可能になっています。

 

 しかし、医療については、まだお金を払って良い医療機関の情報を教えてもらうという文化は根づいていないと思います。今後、一部の富裕層向けに、電話一本で検査や手術が次の日に受けられたり、名医が訪問してくれるサービスが出てくるでしょうが、普通の人には関係のない世界です。

 

 多くの国民が期待しているのは、前出の患者さんが指摘されていたように、「かかりつけ医」が患者さんのエージェントとなって患者さんに必要なサービスを提供することだと思います。

 

 日本医師会と四病院団体協議会が合同で提言した「医療提供体制のあり方」には、かかりつけ医の定義について、次のように書かれています。

 

「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」

 

 自分が持っている技術・施設だけでなく、地域にある技術・施設・サービス、さらには情報を把握したうえで、患者さんが最適な医療・介護サービスが受けられるようにマネジメントするのが、かかりつけ医です。私を含めた、すべての国民が、このようなかかりつけ医を望んでいるはずです。

 

 私が考える「名医」とは、患者さんの“真のエージェント”になれる医師だと考えています。この考えをベースとして、連載を進めていきたいと思います。お付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。

 

川越 満(コンサナリスト)

https://www.k-idea.jp/kawagoe/introductions/

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執筆者
川越 満

川越 満

【プロフィール】
川越 満(かわごえ みつる)
木村情報技術株式会社コンサナリスト®事業部 事業部長
1970年、神奈川県横浜市生まれ。1994年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務とするユート・ブレーンに入社。2016年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術で出版及び研修コンサルティング事業に従事している。コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備える「コンサナリスト®」として、講演活動、書籍の出版プロデュースなどで活躍中。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。一般向け書籍の三部作、『病院のしくみ』『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』(以上、日本実業出版社、共著)はいずれも10年以上にわたって増刷を続けているロングセラー。2016年7月に木村情報技術から『地域包括ケアとは、○○である』を出版。同書の出版を機に医師向けの講演会出演が増え、2018年以降は年間50回以上の医師・薬剤師向け講演会に出演した。2017年2月には『One Patient Detailing実践ガイドブック』を監修。最新刊は『2020-2021年度版<イラスト図解>医療費のしくみ』(日本実業出版社、共著)。2020年から地元横浜でのコミュニティ活動と小説執筆活動をスタートさせた。