青森県上十三保健所所長。医師。医学博士。グロービスMBA。理念は「県民のみなさんが今日よりも明日、10年後はもっと幸せに生きようと思えるサービスを届けること」。多くの人が「わかってもできない健康行動」を、従来の説得ではなく相手にストレスを与えずに促す動画コンテンツをYoutube「たけばやし博士」で配信中。
今回は青森県の公衆衛生医師・竹林 紅氏にインタビューいたしました。
夫の行動経済学者・竹林正樹氏の「ナッジ理論×公衆衛生コンテンツ」を、TwitterやYoutubeで積極的に情報発信されています。
「なぜ今、青森から熱心に情報発信するのか?」という純粋な疑問が、インタビューの中で徐々に解き明かされていきます。 それではお楽しみください!
【コンテンツ制作は自分に共感してくれる仲間を探すための手段】
目次
様々なSNSでコンテンツ発信されていますが、なぜですか?詳しく教えてください。
コンテンツを発信する1番の目的は、「自分の世界観に共感してくれる仲間を見つけるため」です。
私の達成したい目標は「お世話になっている大事な方々が、人生で一回でも多く『生きててよかった』と感じてもらうこと」。
そのために自分自身でメッセージやコンテンツを作って、そこに共感してくれた人たちと活動していく方が、組織を動かすより効率的だと思ったのです。
SNSはYouTube、Twitter、StandFM、note、Linkedin、clubhouseなど使えるものは全て使っています。
いつからコンテンツ製作を始めたのですか?
Youtube「たけばやしチャンネル」は2020年7月からです。
「コンテンツとして存在しないものは、この世に存在していないことと同じ」
これはプレゼンの神様・澤円さんのお言葉です。
この言葉に後押しされるように、コロナパンデミックをきっかけに、 「ナッジ理論×行動経済学」コンテンツを作りはじめました。
今後は保健所での事業もコンテンツ化していきたいですね。
講演内容を動画コンテンツにしたり、かわいらしいビジュアルコンテンツにしたり。その結果、「事業の予算を減らしても、幸せになるサービス利用者が増える」ことができると嬉しいですね。
【自分に足りないものを埋めていく人生】
ドクターになられたきっかけについて教えてください。
人間が存在している限り、医学は必要なので、どうしても医師になりたいと思いました。また、当時、日本初の女性宇宙飛行士・向井千秋さんに憧れていたことも影響していますね。
医師になられてから、どんな経歴を歩まれたのですか?
医師免許取得後の自分を3つに分けてご説明しますね。
- 眼科との出会い
2001年から2007年4月までは、弘前大学眼科医局でお世話になりました。
眼科学の教科書は素晴らしく、J・ドナルド・M・ガスによるStereoscopic atlas of macular diseasesにハマりました。各疾患の疫学、統計、発見までの歴史がストーリーのように語られ、写真も鮮やかでした。感動しましたね。
- 公衆衛生との出会い
その後、「もっとたくさんの職種の方々と接して人間性を成長させたい」と思い、2007年5月から青森県庁の公衆衛生医師になり、保健所勤務がはじまりました。
感染症、内分泌など様々な専門家と仕事ができ、充実していました。
ただ、同時に「将来は青森県の公衆衛生医師しかできなくなる」不安もよぎっていました。
- 経済学、経営学との出会い
そんな時、竹林正樹氏と知り合いました。彼は経済学の出身で当時、MBA(経営学修士)を取得している最中でした。彼とは最初、話が合わなかったですね(笑)。
というのも、それまでわたしは医療関係者としか話をしていませんでした。学問的背景が異なる人と会話をしていなかったんですね。
経済学は「みんなが幸せになるために資源を最適配分する」学問、経営学は「自分たちの組織がどんな価値を誰に提供するのか?そのためにいつ、どこで、誰が何をするのか?」を具体と抽象を行き来しながら決定していく学問。自分に全く縁がなかった考え方でした。
この経験を通して「自分は意思決定できる力がない」ことがわかりました。
判断するために考えるべき枠組は何か?すら、どうやって決定するのかわからない。というわけで、自分自身でMBAを取得するために グロービス経営大学院に入学しました。
2019年卒業後、「自分は誰に何の価値を提供する存在になるのか?」を自問自答する生活が始まりました。「組織で何をやるか?」よりも「自分個人でできることは何か?」こそが重要。そう思ったので、現在は個人で行動するために必要なプレゼン力、コンテンツ制作力、発信力を学ぶため、尊敬する方々のコミュニティで学んでおります。
【『幸せな人生を長く生きていたいから、健康行動を選択したい』と思える環境を作りたい】
青森は短命県といわれていますが、どのように解決したいとお考えですか?
この問題を言い換えると「青森県に生まれてしまうと他県で生まれた人よりも短命な人生を送ってしまう」となるので、短命県は脱却したいですね。
しかし、私が挑戦したいのは、県民の皆さんが「生きてて良かった!」と思う回数を増やすことです。長く家族と一緒にいたい、もっとこの仕事をしていたいと思う人生。その喜びの延長線上に「健康でいたい」と思ってもらいたい。
理論的には適度な生活習慣と検診受診で長生きできるのですが、その行動をするかどうかはご本人が決めることです。
すなわち、「人生が幸せだから長く生きていたい。検診を受けたい」という人を増やしたいのです。
「生きていたい」をスタートラインにしたとしても、「わかっていても暴飲暴食してしまう」状況は誰にでも訪れそうです。
教育に頼るべきことは、それを「知っていれば気をつけたのに、知らないために短命になってしまった」という状態を防ぐこと。ただ、多くの人は「わかっていても健康行動できない」わけです。その方々は、わかっていることを説得されると健康を意識すること自体に嫌気がさしてしまいます。ここで行動経済学が果たす役割は大きいですね。
将来は何を目指していますか?今後のビジョンも含めてお聞かせください。
次世代保健所長は「地域医療プロデューサー」だと思っているんです。
まずは自分がそうなることですね。
保健所長の身近に迫っている問題の1つとして、「保健所長って本当に必要なの?」という問いに本気で自分たちが回答できるか?というのがあります。保健所長は法律では認められている仕事です。
しかし、一般の住民から見ると何のために存在しているのかわからない。今はコロナパンデミックでその意義が与えられていますが、落ち着くと「法律」と「住民の皆さんのニーズ」に大きなギャップが再び出てきそうです。
また、今後10年間で地震、富士山噴火など災害が増えてくると考えられているので、業界の違う人たちをつなぎ、合意形成しながら問題を解決していく能力がこれまで以上に必要です。さらには課題ドリブンではなく、アート思考で新しい価値を創出する仕事が増えるかもしれませんね。いずれにもプロデューサーの力が必要です。
そのためにも「今、自分は誰にどんな価値を提供できる存在なのか?」をコンテンツで表現し続け、フィードバックをもらう毎日をこれからもずっと送っていきます。
まとめ
青森でもこのように常に情報を集め、それを分析し、発信していく方がいるのは心強いと思いました。ナッジ理論についても今回の竹林先生と知り合わなければまったく分からなかったことです。
コロナで世の中が大きく変化をする中で、自分達がどのように生きていくのか、様々な示唆を頂ける存在だと感じました。
また、引き続き、先生の活動には着目して、追っていきたいと思っております。
竹林先生、お忙しい中、インタビューのお時間を頂戴し、ありがとうございました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
◆竹林先生のメディア紹介
Twitter「Dr.紅 / 青森の地域医療プロデューサー」
StandFM「Dr. 紅」
https://stand.fm/episodes/6034cc1fea02752710671236
note「Dr. 紅」
https://note.com/90713/n/n5439958b4594
LinkedIn「kurenai takebayashi」
Youtube「たけばやし博士」
https://www.youtube.com/channel/UCX7Eh7qm6IxZ1iveOecjhkQ
竹林正樹公式サイト
https://nudge-takebayashi.jimdofree.com/home/