神奈川工科大学管理栄養学科准教授 澤井明香先生インタビュー

最終更新日:2020年9月12日
神奈川工科大学大学院
准教授
澤井明香
先生
名古屋女子大学助手、愛知学泉大学講師、千葉県立保健医療大学助教を経て、2012年より神奈川工科大学大学院准教授
2016年より、おいらせ町ふるさと大使

今回のめんこい日記は神奈川県工科大学管理栄養学科准教授 澤井明香先生(旧姓:下田)にお話を伺いました。

 

先生は先進的な学術・研究活動はもちろんのこと、南部家の分家で、盛岡藩で活躍した下田家(旧下田領(おいらせ町下田地区と六戸町と三沢市)の領主・下田将監家)の末裔(16代当主の長女)ということで、おいらせ町のふるさと大使としても活躍中です。

 

一見すると優しくてほんわかされているのですが、美しさの中に凛とした筋の通った感じに、さすが時代が違えば「お姫様」だった方なんだなと思った次第です。

 

それでは知的好奇心満たされるインタビュー内容をご覧ください。

 

 

 

この仕事に携わるようになったきっかけについて教えてください。 

元々、私は食に興味を抱いていました。それは、アレルギーを持っているので食べられる食品が限られていたからかもしれません。例えば、実家では誕生日に赤飯を炊いていたのですが、赤飯と魚を一緒に食べた翌日に蕁麻疹が出てしまうということが良くありました。

 

相乗作用というか、青魚と小豆を同時に食べることが、私の場合は良くなかったようですね。

 

大学を選ぶ際にも、ご自身のことや栄養への関心が影響していたのでしょうか。 

私の最終学歴は横浜市立大学の大学院の医学博士課程なのですが、元々は管理栄養士を養成する大学を卒業しています。そこで色々な勉強をする中で、病気に関する栄養を学びたいと感じ始めたのですが、その専門の研究室が大学にはありませんでした。

 

どうしてないのだろうと気になって調べたところ、まだ全国の大学にはそういった専門の先生がいらっしゃらないということがわかりました。勿論、大学に教えに来てくださる病院の栄養士の先生や、お医者さんや、短期大学で講師をされている方はいましたが、大学の教員として育っていないので、大学そのものには病気の時の栄養を考える研究室がありませんでした。

 

ないのであれば自分で作ろうという考えに至り、日本全国を探して先進的なお考えを持っていらっしゃる栄養学の先生にたどり着き、そこの大学院の修士課程で学ぶことにしました。

 

しかし、栄養学の大学院でお世話になった先生も、人の栄養を直接研究してこられたわけではないので、このまま栄養に関わる場所にいたなら、食品の素材や調理、細胞や動物の実験などには詳しくなっても、人体に関しての勉強や研究ができないことに気づき、先生の薦めもあり、次第に医学部の大学院へ行きたいと思い始めました。しかし、医学部へ行くような栄養士はいませんので、受験をさせてもらえるところを探し、試験を受けて入学したのが横浜市立大学の医学部の大学院になります。

 

今年、日本栄養・食糧学会トピックス賞を受賞されたそうですが、どのような研究テーマだったのでしょうか。

今、欠食をする若者はとても多く、20代で3割ほどが朝、欠食しています。私は神奈川県に住んでいますが、ここの男性に関して言うと20代は4割にものぼっています。また、女性は3割です。欠食すると、肥満や脳卒中になりやすいという調査報告が最近出ていますが、これらは食習慣の積み重ねによるものなので、今、健康な体である若い人には、どうもピンと来ないようなのです。

 

そのため、食べなければどうなるのかを追求し、そのメカニズムがわかったり、目には見えないかもしれないけれど、健康で若い人でも、実は、身体の中では大変なことが起きている、ということがわかれば、食べなければいけないと言う気持ちがもっと高まるかなと思い、そちらを研究テーマにしました。

 

20代というのはお子さんを持つようになる年齢です。自分が食べないと子供にも食べさせる生活ができないと思い、そこを科学的になんとか証明できないのかと考えました。

 

取り組んでいることとしては、おそらく国内の管理栄養士の中でも一人いるかどうかですが、脳の血流や心電図を測定し、食べたものが頭や神経にどう働くのか研究しています。

 

ちょうど2000年頃くらいに補導された非行少年を対象に欠食との関係を調べた調査があり、およそ55%のお子さんが朝食を食べていないことがわかりました。

当時、こどもの欠食はそれほど多くはなく、510%ほどでしたが、そのような状況の中で5割を越しているのです。

 

食事をとることと非行が関係しているのかどうかはわかりませんが、実際に非行して補導されているわけです。もしかすると、メンタル的にも食事を欠いてしまうことが様々な影響を及ぼしているのかもしれないと考え、心電図を測定して、暗算をした時の自律神経、交感神経と副交感神経の二つのバランスをみてみると、やはり欠食した日の方が、交感神経が高まっていて、つまり感情的になりやすいことがわかりました。

 

朝食をジュースだけで済ませてしまうお子さんもいるかもしれませんが、やはりきちんと食事として食べることが大事ではないかと思っています。

 

一度に栄養がきてしまうと、それはそれで吸収はされますが持続性はありません。一時は満たされるかもしれませんが、しばらくするとお腹がすき、またイライラしてし、勉強に集中できない事態につながってしまいます。

 

澤井先生は、学生時代はどのような生徒だったのでしょうか。 

私は親からあまり学費の支援をしてもらえなかったので、バイトざんまいの日々でした。加えて、奨学金の関係もあるので、トップを取っていなければならない事情もありました。本当は、周りの友達のように、楽しい大学生活をしたかったのですが、それはできずに終わってしまいましたね。

 

大学院は親に反対されていたこともあり、自力で通いました。保証人を頼むこともできなかったので、家も借りられなくて。そのため、場合によっては貯金通帳をお見せして、保証人なしで貸してもらえる部屋がないかと探したこともあります。

 

やはり良い方もいるもので、そういった方に助けらましたね。

 

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おいらせ町のふるさと大使に就任されたとのことですが、どのような経緯で受けられることになったのでしょうか。 

ちょうど、私が下田領の旧領主・下田将監家の末裔だと認定されたのがまず一つです。

 

また、先祖のお墓に行くと、いつも町の方が掃除やお花を飾ってくださっていました。たまたま、お寺に行ったときに私の先祖のお墓をお参りしてくださっている方がいらして親戚かなと思い声をかけたところ、そうではないということがありました。その方は、このお寺の檀家さんは皆さん、お寺に行った際には必ず、下田家の先祖からお参りされているとおっしゃり、とてもびっくりしました。

 

さらに、城跡には下田小学校が建っているのですが、運動会の時には昔の踊りを踊ってくださっていることも知りました。小学校に隣接して先祖が建てた神社があるのですが、そこでのお祭りも昔からの踊りを披露してくださるなど、すごく大切にしていただいていることも知り、嬉しかったですね。

 

そのような経緯もあり、何かお役に立てることはありますか?と話をしたことでご縁がつながりました。

 

ふるさと大使では、どのようなお仕事をされているのでしょうか。 

特別なことはないのですが、イベントがあった時には参加するようにしています。また、私が仕事で全国へ行った時に名刺を一緒に渡したり、名産品をご紹介するなど、それによって助成していただくことはないのですが、自分のお仕事と一緒に披露している感じですね。

 

青森には、どのくらいの頻度で帰省されているのでしょうか。

私の家は、明治維新と同じ頃に東京へ一族で移動しています。盛岡藩としてお殿様が動いていますし、家来もその近くに住むことになりますので、青森にはお寺やお墓しかありません。

 

宿泊するところもないので、お祭りの時に行ければ良いなといつも思っています。

 

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外から見た、青森の魅力について教えてください。

自然が豊かで空気が綺麗なところですよね。

おいらせ町の動画を作る際にいろんな観光地を巡らせていただいたのですが、海の幸も美味しいですし、皆さん本当に親切で困ることが何もなかったですね。かつ、程よくいろいろなものがあります。生活にも困らないのも良いですよね。

 

神奈川工科大学で教鞭を取られていますが、どのような研究テーマに取り組まれていらっしゃるのでしょうか。 

今は、4つのテーマで研究を行っています。

 

ひとつ、証明できた研究があります。

それは、今まで体の中のタンパク質の一種である、血液中のアミノ酸は健康な状態ではあまり動かず、病気になった時に動くとされていました。でも、実はそうではなく、女性であれば月経が始まる少し前、体温が高くなっている時に特定のアミノ酸が下がることがわかりました。論文にもしていますが、やはり、きちんと食べないといけないとは思いますね。

 

アミノ酸というのはタンパク源と呼ばれる食品(肉・魚介・卵・大豆製品)であれば、大抵はどのアミノ酸も入っています。何らかのアミノ酸だけ突拍子もなくたくさん入っているという感じではありません。

 

そのため、まずは欠食の習慣を改めて頂いて、きちんと食事を摂ることを心がけて頂きたいと思っています。また、時にはサプリメントのお世話になることもあるかもしれませんが、高温期になるとエネルギーに合成されやすい側のアミノ酸が極端に減りますので、それを補うことで体に良い効果が生まれるのかもしれないとは考えています。

 

月経周期等に関わる研究としては、ほかにもあります。妊娠してすぐに必要になる栄養素があるので、なるべく、性周期は早い段階で確実にわかったほうが良いと思い、体の中の深部体温が測れる体温計を企業と一緒に取り組んでいます。加えて、月経にまつわる症状が軽くなったり、美肌効果のあるものが見つかったら良いですよね。

 

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今後の研究に関するビジョンについてお聞かせください。 

食事の大切さを、皆さんに伝えられるよう科学的なデータを出していきたいと思っています。そして、美味しいものを提供できたら良いですね。なるべく薬に頼らず、毎日の生活の中でいろいろな工夫をすることによって健康を保ち、病気を未然に防ぐことができればと考えています。

 

また、認知症についても取り組んでいるところです。

今は高齢の方の運転が問題視されていますが、運転免許の更新時には認知機能の検査が行われています。その検査にさらに、色々と組み合わせることで事前に自分の状況がわかり、訓練によって保つことができれば良いですし、もしかすると認知機能が低下するより前に味覚などに問題が起きているのかもしれません。その段階で気づくことができれば注意ができるので、その辺を考慮しながら動いています。

 

エネルギーを含む食品はたくさんありますが、同時にバランスが崩れているものも数多くありますので、ただ食べていれば良いという話ではありません。

また、日本には食事摂取基準という、この年代はこういう食べ方をすると良いという基準があるのですが、それを参考にすると年齢問わず摂りたいタンパク量はほぼ同じです。

 

しかし、高齢の方の食事を見ると、もともと全体量が少ないですし、お肉やお魚も少量です。人間の体の構成は、一番が水分でその次はアミノ酸、つまりタンパク質なので、食べなければどんどんすり減ってしまいます。自分の体を削ることになるので、しっかりと食べていただきたいですね。

 

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まとめ

インタビューの内容はいかがだったでしょうか?

私自身、かなり興味深く、知的好奇心を満たされた時間でした。

 

世の中にないのであれば、自分が切り拓いていくという先生の行動力は様々な場面でその能力を発揮されており、卓越したものがあると思いました。

 

「食べることは人の根源に関わることなので、もっと大切にしたいですね」というメッセージを今回の取材では一貫して伝えて頂きました。

 

お話頂いた「食事と妊娠とお産と育児の関係」も興味深いテーマですし、「食事と認知症の関係性」もかなり気になるところです。

 

また、これらのテーマについても改めてじっくりとお話を伺う機会をお願いしたいと思っております。

 

澤井先生、休日のおくつろぎの時間に取材を受けて頂き、ありがとうございました!この場をお借りして心より御礼申し上げます。

 

 

関連サイト

 

神奈川工科大学管理栄養学科 臨床栄養・健康科学研究室

https://www.kait.jp/ug_gr/undergrad/health/nutrition/academic/sawaiasuka.html

 

おいらせ町ふるさと大使

https://www.town.oirase.aomori.jp/site/furusato-taishi/furusatotaishishoukai.html

 

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