男性看護師(透析技術認定士)の中野雄宇氏にインタビュー

最終更新日:2020年5月15日

このたびは八戸市で男性の看護師としてご活躍中の中野雄宇氏にインタビューをさせて頂きました。看護師というとイコール女性というイメージが強いですが、診療科によっては男性の看護師が必要な場面もあり、医療現場においては欠かせない存在でもあります。

 

女性に比べると圧倒的に数が少ないので、一見目立たないですが、男性看護師として積極的に地域医療と関わっておられる中野氏のインタビューをご覧ください。

まず、自己紹介をお願いできますでしょうか。 

私は現在、42歳で2人の娘がいる看護師です。

13年間、透析に関わっていたので透析技術認定士も取得し、透析を専門に仕事をしようと思っていたのですが、体調を崩して一旦、透析の職場を離れました。

 

地元が岩手県岩泉町なのですが、体調を整えるためにそこへ単身で戻り、地元の病院で透析の業務に1年半取り組んできました。

 

そうしてまた八戸へ戻り、今は介護施設で仕事をしています。さらに、5月からは訪問看護へ異動になりました。

 

医療従事者の中では男性看護師は比較的、マイナーな部類ですが、どうしてなろうと思われたのでしょうか。

私は小さい頃から手術のような作業が好きで、ぬいぐるみも自分で切るなど、手術の真似事をよくしていました。自分の中では、看護師は女性の仕事だと思っていたのですが、ちょうど母親から男性の看護師もいるという話を高校3年生の時に教えてもらい、そこから方向転換をし、チャレンジしてみようと思ったのがきっかけです。

 

看護学校時代、男性は他にもいらっしゃいましたか? 

40名中、3名が男性でした。

当時は、男性の看護師というと精神科が多かったですね。やはり、女性は力仕事が苦手ですし、精神科では暴れる方も多いのでそういう役割が主流でした。

 

かつては精神科や介護老人保健施設がメインでしたが、今は男性看護師もいろいろな診療科に配属されているので働きやすくなっていると思います。

 

透析に15年ほど関わっているとのことですが、透析の医療現場はかなり独特なのでしょうか? 

そうですね。行きたくないと思われる看護師も多いのではないのでしょうか。

 

それはなぜかというと、機械操作もありますし、患者さんが急変しやすく判断が遅れてしまうと死に至ることが背景にあるのだと思います。そのため、好きか嫌いかに分かれ、好きな人はどっぷりとハマってしまう世界ではあります。

 

私は好きの方にどっぷりとハマり、透析技術認定士を取得しました。

 

透析を学び始めたのは、当時、透析をしていた父親が、透析後に具合が悪くなることが多く、どうしたらいいのか全くわからなかったので、その理由が知りたいと思ったからです。残念なことに、私の父は透析中に亡くなってしまったのですが。

 

やはり、自分が透析に関わる中で自分の親を亡くすということはとても辛く、どうして救えなかったのだろうという気持ちが大きかったですね。今は、当時と異なり透析中に亡くなるということは少ないのですが、この辺りでは亡くなる方もまだいらっしゃいます。実際に働いてみるとその理由が分かったのですが、昔ながらの透析を続けていて情報の更新がないということが大きな要因だと気づきました。

 

その現状をどうにかして変えることができないかと思っていたのですが、それが実らないまま八戸へ帰ってきた形になります。

 

訪問看護の方にも関わっていかれるとのことですが、実際にはどのような形で進めていかれるのでしょうか。 

今は新型コロナウイルスの影響でなかなか病院へ行けない患者様も多い中、大変ご不便をおかけしていると思います。その中でも我が地元岩手県岩泉町は八戸市より田舎なので病院へ行くにしても片道で23時間かかってしまいます。送迎バスもないので、高齢者でも関係なくマイカーで通っているという状況です。

 

しかし、今後のことを考えると「不安だ」という声がすごく多く、一方で、入院したくてもできない、施設もないから入れないという現状を鑑みて、在宅透析ができないかずっと考えていました。

 

調べていくうちに、今の医療保険内での訪問看護の提供だと在宅透析は難しいのですが、保険外であれば看護師が実際に訪問して針を刺し、4時間透析をして、終わったら状態観察をすることで叶うらしいということがわかりました。

 

そのため、保険外での訪問看護提供料金を設定する必要がありますが、週3回利用するとなれば無理のない金額を提示しなければなりませんね。色々と提供できればと思っています。

 

今の保険での在宅透析は、自己穿刺をするというのが条件です。自分で針を刺してラインをつなげて管理をする研修を受け、実際に自宅で行う形になるのですが、高齢の方はそれができません。ご家族の協力も必要ですが老々介護だと不可能ですよね。そういう場合は、看護師が協力しないといけませんが、田舎だと難しい面がありますよね。

 

透析の機械についてはリースや購入、両方の側面から考えていますが、レンタルだとやはり月45万くらいの金額になってしまいます。一方で、実際に透析の機械を購入すると定価で約200万。そして、水処理に大体100万円ほどかかります。トータルで300万の投資しメンテナンスを定期的に行えば10年から15年は使える計算ですね。

 

個人的には正直、購入した方が良いとは思うのですが、そこは利用者の方にお任せし、どちらでも提供できるようにとは考えています。

 

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ドクターとの連携はどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

ドクターとの連携は、オンラインでの診察を考えています。

岩泉町では、各家庭にテレビ付き電話が配置され“ぴーちゃんねっと”というチャンネルを通じて地域の情報が流れてきます。町内の方と電話をする時も無料なので、安否確認もしやすいツールになっています。これが使えると便利ですし、もしダメであってもオンライン環境を整え使用することでカバーできると考えています。

 

ドクターとの連携が今後の重大な課題になりますね。

実は、久慈市には透析の施設が県立病院の一施設しかなく、個人病院がありません。

宮古市であれば個人病院は一施設だけ透析をしているところがあり、県立病院も増築もしているのですがそれでも間に合わない状況です。

 

年齢が若い透析患者様は、12時間かけて運転して透析を受けても良いという方であったとしても、高齢になると通うことが難しく、やはり近くで透析を受けたいという要望がすごく出てきています。

 

しかし、実際にはハードルはかなり高く、今は賛同してくださる方のサポートを受けながら活動しています。

在宅透析を行う際、危険な状態になる可能性もあると思いますが、これに対処できるナースは結構いらっしゃるのでしょうか。

今のところ、在宅透析のスタッフは、透析経験のある看護師を派遣する必要があると思っています。透析では、針を刺せないというのが一番の問題です。穿刺ができなければ透析ができないわけですが、現場ではそう言っていられません。

 

いくら色々な分野で経験を積んだ看護師であっても、そこがきちんとできなければ透析は難しいですよね。

 

知識や経験を補完するものとして、研修制度も視野にいれています。1か月間、病院での透析研修を受け、透析の仕組みを学ぶという方法です。透析のことを理解し、在宅透析治療を安全に実施するには無理のないよう進めていければなりませんね。一番のリスクは急変ですのでそのリスクはなるべく避けなければなりませんね。

在宅透析もそうですが、透析になる前に救ってあげたいという思いもありますよね。 

その情報も発信していきたいと思います。

専門医にかからず自己判断で治療をしなかったり、血圧が高いからと内科を受診して血圧が安定したからと自己中止したりして、腎機能を悪化悪ということも珍しくありません。実際、専門医の診察や治療を受けることで透析導入の数は増えないというデータもありますので、それらを伝えながら透析導入の数を下げていきたいですよね。

 

青森だと糖尿病から透析へ移行するケースが多く見受けられます。また、地域柄か塩分が高い食べ物を食べる傾向もあり血圧も高い方が多く、高血圧を放置して腎硬化症という疾患になり透析へとつながってしまうこともあります。その他の原疾患に繋がる場合もありますが。

 

高齢者向けデイサービスの方にお伺いしたことがあるのですが、食事を簡単なカップラーメンで済ましてしまうという高齢者も多く見受けられます。80、90代になってから透析を始めることも増えてきました。

 

また、風邪をひいたからといって市販薬ばかり購入して腎臓を壊す場合もありますので、やはり専門医の診察を受けてもらうことの必要性も伝えていきたいですね。

今後のビジョンについてお聞かせください。 

訪問看護はどの場所で始めようか色々と考えてはいるのですが、岩泉町は災害地域に指定されているため、少し標高が高く、津波の心配がない地域でと考えています。

 

現在、東北では高速道路の開通に向けて工事をしており、来年か再来年には八戸から気仙沼付近までつながり無料で使えるようになるので、そういった意味では、緊急事態でも県立病院へ行きやすいですよね。

 

岩手県はすごく広く、山の中に家がポツンとあるようなところも多いですし、人口の半数以上が高齢者です。介護や医療に関しては、これからもっと必要になってくるのではないかと考えています。そのため、看護も介護も、そして保険適用も保険外も含めて取り組んでいけるといいですよね。

まとめ

看護師として医療に関わり、地方ならではの医療体制の不備をどうやって解消するべきかということを真剣に考え、動かれている様子がよくわかるインタビューとなりました。

 

離島やへき地医療の厳しい環境の中で一縷の望みはこういう心ある医療者の奮闘があることだと感じています。これから同じ志を持つチームを作って、八戸や岩泉の患者さん達のサポートにまい進して頂きたいなと思いましたし、青森ドクターズというメディアとしても応援していきたいと思いました。

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